ワイン不完全ガイド「シェルブロ」

戦わないワイン商 (株)Sheldlake代表村山による、ワインとかなんかそんな感じのブログ

甘いは辛い 〜 甘口ワインが亜硫酸塩を必要とする理由 〜

〜 前回 〜

 

で、今度は甘口

 

チンクエ・テッレ Sciacchetra(シャケットラ)。超希少のデザートワイン。

 

甘口のワインに対する許容量、どの認証においても、他のタイプに比べて目に見えて緩いですよね。

つまり、他より少し多めの亜硫酸塩が必要ってことですよね。

 

のとこなんかで

 

亜硫酸塩の大切な役目の②:微生物や細菌の増殖を抑える抗菌作用

 

って言ってますが、特にこれに関わります。

というわけで、皆さんが暇になるであろう醸造過程のお話。

 

 

甘口ワイン(デザートワイン)の造り方

さて、「甘口ワイン」って一言で言っても、その造り方にはいくつかあるんです。
その一部ですが、こんな感じでどーん。

 

①アルコール発酵を途中で止めて、糖分を残す

②使用するブドウ自体の糖度を上げる

③甘味料に当たる成分を足す

 

③は…まぁちょっと例外なので、置いときます。

まず、から。

 

 

①アルコール発酵を途中で止めて、糖分を残す

 

前回も出てきた「アルコール発酵」って

 

[ 酵母菌が ブドウの糖分を分解し アルコールと二酸化炭素にする ]

 

つまり、これが“ジュース”が“お酒”へと変わるプロセスなわけですな(詳しくはまたどっかで)

普通の「辛口ワイン」の場合、この発酵によって、糖分の大部分がアルコールに変換されて、甘味のないワインになるわけです。あくまでざっくりですよ。

 

ってことは

このアルコール発酵をある程度のところで止めれば、その分、糖度が充分に残ったワインになるって寸法です。


で問題は、そのアルコール発酵の“止め方”。

 

ここで出てきます、亜硫酸塩。

 

一定量の亜硫酸塩は、酵母菌の働きを止めます。亜硫酸塩の効能、“微生物や細菌の働きを抑制する”って繰り返してますが、もちろん「酵母菌」にだって働きます。

なので、生産者の “狙っている甘さになったな” というところで、亜硫酸塩を添加し、アルコール発酵を止めちゃうわけです。

 

※通常のワインの醸造において

亜硫酸塩は、酵母よりまず先に有害な細菌の増殖を抑えるという性能があるそうです。ワイン醸造にとって、ここでも有能な働きをしてくれるってわけです。

 

「甘口ワイン」って、度数低いやつ多くないですか?「9%」とか「10%」とか、よく見ますよね。


それはなんでかって、こういうことです。
大体の辛口ワインって、「12.5~14.5%」くらいでしょうか。そこに達する前に、糖度を残して止めてしまうから

そして、なんで「甘口ワイン」の亜硫酸塩の許容量が他より緩いかって理由の一つも、このため。
“甘口のワインを造るために必要なプロセスである” と認められているからでしょうな。

 

※ “アルコール発酵の止め方”には他にもあります。

例えば、発酵中にブランデーの様な度数の高いアルコールを足しちゃうんです。すると、糖度を充分に残したまま発酵は止まります。酵母菌は、15%後半くらいにアルコール度数が上がると動きを止めるからです

フランスでは、このような甘口ワインは「Vins doux Naturel (ヴァン ドゥ ナチュレル)」って呼ばれます。

一方、発酵が始める前にブランデーを添加し発酵自体を止め、そのまま熟成させるものもあります。こちらは「Vins de Liqueurs(ヴァン ド リキュール)」と呼ばれます。皆様もご存知、コニャックを添加する「ピノー・デ・シャラント」が有名ですね。

  

んで、お次は②。

 

 

②使用するブドウ自体の糖度を上げる

 

こちらは栽培面のお話。

「ブドウ自体の糖度の上げ方」にも色々あります。こんな感じでどーん。

 

  • 通常収穫を遅らす
  • 乾燥させて水分を飛ばす
  • 貴腐菌を付ける
  • 凍らす

 

●乾燥させて水分を飛ばす

例えば、冒頭の写真。

イタリアは世界遺産の街、チンクエ・テッレで造られる「シャケットラ」という希少なデザートワイン。


通常収穫時期を遅らせて収穫した上、風通しの良い場所で45~60日程陰干しした、いわば“干しブドウ”を使用します。
恐ろしく凝縮された果実味を始め、様々な風味が押し寄せてくるような、複雑極まる味わいです。

乾燥させることで果実内の水分を飛ばし、糖分やエキスが凝縮しまくったブドウになるってわけです。

しかし、これは同時に“リスク”も内包しています

 

貴腐菌を付ける

貴腐菌」ってのはお聞きになったことありますかね。「貴腐ワイン」なんて言葉。

 

※有名なのは、なんたってハンガリー及びスロバキアの『トカイ・アスー』

フランスはボルドー地方の『ソーテルヌ』

そして、ドイツの『トロッケン・ベーレン・アウスレーゼ』(必殺技の名前みたいでしょ)

この3つが、世に言う「三大貴腐ワイン」ってやつです。

 

貴腐「」なわけですよ。「高貴に腐る」と言われても、なんか、変な感じしますね。

フランス語では“pourriture noble(プリチュール・ノーブル)”(気高き腐敗)と、まぁとにかく「素敵なカビ」みたいに捉えられてるわけです。

 

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▲凝灰岩からなる地下セラー。真夏でもかなりの低温、高湿度を保つ。


これ、スロバキアのトカイ地域にある、とある貴腐ワインを造るワイナリーの熟成庫。視察時の写真の一部。

もう、すごいでしょ。もはやバイオハザードの世界(写真には何の加工もしてませんよ)。
このカビが、優しく深く深く、貴腐ブドウによるワインを熟成させていきます。


「菌」なのに、なんでそんなに崇められてんのよって思うのが人の性ですが、その貴腐菌によってもたらされるワインの味わいが

「めっちゃうまいわ~ 高貴な味わいですわ~」

ってことですな。


この貴腐菌、「ボトリティス・シネレア」って呼ばれますが、このカビが果実に付着します。その菌糸がブドウの果皮を破って入り込んでいきます。菌糸の入り込んだブドウは、無数の小さな小さな穴の開いた状態になるわけです。そして、太陽が昇り日が当たると、その無数の穴からブドウの水分のみが蒸発していきます。

 

糖分やエキスが凝縮しまくったブドウになるってわけです(上記の「・乾燥させて水分を飛ばす」と同じですね)。

 

しかしこれも同じ、同時に“リスク”も内包しています

 

●凍らす

今度は「凍らす」場合。「アイスワイン」ってやつ。

 

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▲ブラウフフレンキッシュという黒ブドウを使ったロゼのアイスワイン

その昔、ワインとか何の興味も関係もなかった頃、「アイスワイン」って、ワインを凍らせてシャリシャリのシャーベット状にして食べるものを想像してました私です。

違いますよ。それはそれで美味しそうだなって、正直思いましたけど。


自然に凍ったブドウを使うんです。
詳しくは弊社HPのアイスワインの商品ページに書いてますので、大人しく誘導されて頂きたい所存。

めっちゃ美味しいワインを一生懸命輸入して頑張ってる安心安全優良企業

 

と、「アイスワイン」っていっても大変なんです。数々の条件が揃わないと、ワイン自体造ることは出来ません。“技術的に凍らせて”造るアイスワインもありますが、上写真の産地、スロバキアでは法律上許されていません

「貴腐ワイン」もそう。
いくつもの風土条件が揃わないと、そのカビはブドウに付いてくれません。
写真に上げたワイナリーも、年によっては全く造れない、もしくは造らないそうです。

 

 

しかし、繰り返しますが

同時に“リスク”も内包しています。

 

 

だから甘口ワインはSO2許容量が高い

途中で発酵を止めて糖分を残す

亜硫酸塩で止める

 

過熟したブドウを使う

酸度が低いブドウ=亜硫酸塩が働きづらい環境

ココで、こんな事書いてました私。

 

そして収穫時期を過ぎ、樹に付いたままの実は、それでもなお糖度は上がり続け酸度は下がり続けます

もしも、熟し過ぎた状態(過熟)で収穫すれば
酸度が低いブドウを使用することになります。

亜硫酸塩が、より働きづらい環境です。 

傷ついたり病害に侵されている実は、この酵素の量が増えます(前回記事、亜硫酸塩の役割①)。
さらに、傷ついたブドウは、雑菌により侵されやすくなります(前回記事、亜硫酸塩の役割②)。

そのようなブドウを使えば、より多くの亜硫酸塩が必要になりますよね。

ということは逆に、傷のなく健康なブドウを使えば、添加量はより少なく済みますよね

 

酸化酵素。傷んだり傷のあるブドウに多く含まれる、果汁を酸化に押しやる成分。

これ一つとっても、リスクは上がります。

また、先程の出てきた「貴腐菌」。
この記事で出てきた「酸化酵素」、貴腐菌には通常よりも多く含まれています。つまり、品質を維持するのに、通常よりも多くの亜硫酸塩が必要になりますよね。

 

 

あくまでザックリなんですが

[赤 / 白 / 甘口 / …etc]と、亜硫酸塩の許容量が違うのって、そんなこんなの理由があります。

 

こうして見ると、細かい“制度”にも、それなりのわけがあるってことですな。

 

 

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株式会社シェルドレイク 代表村山

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