ビオワインってなんだ 5 ~ 挑戦には賛辞を ~
~ 前回続き ~
そうは問屋が卸さない続きです。
亜硫酸塩を減らすって、そんな楽なことじゃないんです。 楽なら皆やりますもんね。
じゃあビオ/自然派ワインの生産者たちは、どうやって減らすんでしょう。
亜硫酸塩が働きやすい環境
前述の通り、亜硫酸塩を添加する理由の一つは、酸化防止作用のためです。
でも、どんな時、どんな環境でも、この亜硫酸塩くんが、ちゃんと働いてくれるわけではありません。「有給休暇とか福利厚生とかしっかりしてくれなきゃモチベ上がんな~い」みたいな感じです。
彼が働きやすい条件と、働きづらい条件があります。
条件1:酸度
亜硫酸塩の添加を減らすためのキーワードの一つ、それは「酸度」( ※本来pH値(ペーハー値)で語るべきでしょうが、ここでは簡略化します)。
酸度が高いと、亜硫酸塩の効果が高まるんです。 ってことはつまり、より少ない添加量で済む、ってことです。
▲スロバキアのワイナリーにて。収穫直前のブドウ
ヨーロッパだと6月頃、ブドウが実を付け始めます。
この頃の未だ若いブドウって、食べるとめっちゃ酸っぱいんです。つまり酸度が高いんです。 「酒石酸」と「リンゴ酸」という、ワインを構成する上で重要な酸が蓄積されていきます。このとき、糖度はほとんど生成されません。
子供(種)の準備ができてないのに、鳥に食べられたら子孫が残せんませんからね。
子孫を残せる段階になるまで、自分を美味しくしないように。
成熟していくに伴って、今度は糖度が蓄積されていきます。 そして、逆に酸度は低下していきます。
実の色付き(「ヴェレーゾン」といいます)が始まり、実は柔らかくなっていきます。同時に、ワインにした時のアロマやタンニンに関わる成分も増大します。
見た目も、味も、美味しくして、鳥さんに食べてもらって、種を蒔いてもらうように。
そして収穫時期を過ぎ、樹に付いたままの実は、それでもなお糖度は上がり続け、酸度は下がり続けます。
もしも、熟し過ぎた状態(過熟)で収穫すれば
酸度が低いブドウを使用することになります。
⇒亜硫酸塩がより働きづらい環境です。
ブドウの状態を見極め、適熟期に収穫すれば
糖度、その他アロマなどの成分、そして酸度も備えたブドウが使えます。
⇒亜硫酸塩がより働きやすい環境です。
●条件2:健康なブドウ
酸素があります。 「酸化」と言うからには、それを受け取る(反応する)ものがあります。
前回出てきたリンゴも、ブドウも、その実には酸化酵素と(総じて)呼ばれる成分があります。
この酸化酵素が酸素と反応し、ワインを酸化に押しやるイメージです。
亜硫酸塩は、この酸化酵素の働きを抑制するわけで、ひいては“酸化防止”に繋がるわけです。
ここからなんですが
傷ついたり病害に侵されている実は、この酵素の量が増えます(前回記事、亜硫酸塩の役割①)。
さらに、傷ついたブドウは、雑菌により侵されやすくなります(前回記事、亜硫酸塩の役割②)。
そのようなブドウを使えば、より多くの亜硫酸塩が必要になりますよね。
ということは逆に、傷のなく健康なブドウを使えば、添加量はより少なく済みますよね。
▲スロバキア、ビオワイン生産者の収穫風景。全て手摘みで行われる
良く聞くでしょ。 『手摘みによる収穫』って、そんな宣伝文句。
だからなんです。
機械でガーっと収穫すれば、手間は掛からないし、人件費もより少ない。 でも、その機械収穫の最中に、どうしても傷つきやすい。
手摘みであれば 収穫の時点から傷があるか、腐ったりしてないか、充分に育っているかどうか、取捨選択もできます。 「選果」ってやつです。 (もちろん、悪いブドウを見分ける経験と「目」を持った人材でなければ意味はありません)
………
と、一部ですが、以上のような感じで、ビオ/自然派ワインの生産者は亜硫酸塩の添加量を減らします。 まさに、あの手この手で。
上記の、狂おしいほど回りくどい説明をまとめると
・適熟期に
・傷や腐りのない健康なブドウを
・安全に収穫
すれば、亜硫酸塩の添加量を減らせるってわけです。 あくまで、ザックリなんですけど。
※他にも、例えば「ナイト・ハーベスト」って言葉を聞いたことがあるでしょうか。その名の通り、「夜間に収穫」です。
なんでそんなことするかって、一つには温度です。
上述の、酸化酵素。 温度が上がると活性化します。 言い方を変えれば、温度が上がると酸化しやすくなります。 夜間は気温が下がりますよね。酸化酵素がより働かない時を狙って収穫するためです。だから、収穫後は出来るだけ素早く運び、低温で貯蔵する必要があるそうです。
ビオ「ワイン」の話なのに、最初の方からなぜ[栽培過程]のこと書いてたかって
やっぱり「畑から」が重要になるからです。
「ワイン造り」って言っても、結局「農産物」ですもんね。
自然派ワインは“楽じゃない”理由
で、ようやく記事の最初に戻りますが 「楽じゃない」ってのは、つまりそういうことです。
化学肥料や除草剤を使えば、栽培は容易に、安価に、かつ大量に出来るかもしれません。
しかし、それを使わないということは、より多くの手間と仔細な観察を要し
多くの手間と仔細な観察をかけるには、広大な土地を所有し大量生産することは望めず
収穫を機械に頼らないのであれば、収穫の正しい経験と「目」を持った人材の確保・教育が必要になり
……etc
認証を取得する・しないに関わらず、ビオ/自然派ワインの生産者って こんなことをして「より自然に寄り添ったワイン」を実践してます。
マーケティング、コマーシャルの道具としてのみ「ビオ」「自然派」「オーガニック」を追求する生産者も少なくないようですが、しかしながら
という真摯な想いや哲学、挑戦。これに実際に触れてみると、心を打たれるものが確かにあります。
だから、そんな生産者の特集ページ作って、なるべく多くの方に飲んでもらいたいなって思ってます。
かみんぐすーんです。
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株式会社シェルドレイク 代表村山
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