ワイン不完全ガイド「シェルブロ」

戦わないワイン商 (株)Sheldlake代表村山による、ワインとかなんかそんな感じのブログ

ワイナリー視察探訪2 〜スロバキア 伝統の家族経営ワイナリー編〜

こんにちは私です代表です村山です。

 

引き続き、我がか細き指は風となり光となり文字を打ち込みます。誰かスパーカミオカンデで計測して。

 

 

この夏、視察の旅路で出会ったワイナリー紹介の続きです。

前回、そして今回の2つのワイナリーが、次輸入する新規ワイナリーとなります。

 

前回記事がこちら ↓

※「ワイナリーについて」の記事となります。個別のワインに関しては、来月ごろ記事にします。

 

前回は、私にとっての新天地、チェコのワイナリーをご紹介しましたが

今回は、弊社シェルドレイクの本拠地(誤用)、スロバキアから。

 

強靭な哲学、強固な信念、しなやかな対応力。

飲みながら、気がつくと目を閉じているほど深く、綺麗で、美味しいワイン。

 

そんな、卓越して素晴らしいワイナリーに出会いました

 

 

スロバキア 自然派家族経営ワイナリー

産地について

 

「ずーーーっと 気になって仕方なかった。でも時期が来るまで、本当にいい生産者が見つかるまで、視察を勿体ぶってた」

 

そんな産地が、私の中でずっと熱を持ち、舌なめずりして待ってました。

 

その産地というのが、Strekov(ストレコフ)

 

f:id:sheldlake-wine:20181029183935p:plain

 

南スロバキア、二トラ地方Strekovというがあります。

 

※ストレコフを「Region(地方)」と間違っているな って記事や言説がよくみられますが、ストレコフは「村」ですよ。「ニトラ地方・ストレコフ村」です。

 

ここはですね、スロバキア国内のワイン産地の中でも、かなり有名なんです

このあとご紹介するワイナリーからお聞きしたことですが、「ストレコフでは、100年くらい前までは住民の誰もがブドウ畑を所有してた」ってくらい、ワイン造りの文化が色濃い産地。

 

そして近年は特に、ナチュラルワインの生産者が多いってことで、国内だけでなく周辺国にも名を馳せています。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029184840j:plain

※ストレコフ到着直前の車窓。ずっとこんな。

 

首都・ブラチスラヴァから車で1時間半ほど、草原をひたっっすら走り続けると、遠くに延々と続く丘陵が見えて来ます。ストレコフ村のブドウ畑です。

  

「Strekovは、スロバキアのワイン生産区域の中でも最も暑くて晴れの多い地域」

 

と現地で言われてるんですよ。

 

過言じゃないな こりゃ

 

ストレコフのブドウ畑を遠くに仰ぎながら思ったものです。

昔の人は感覚的にわかっていたんですね。ブドウ栽培に最適な場所だってことが。

 

1日中、太陽の光が当たり続けるよう南〜南西に拓かれている畑の斜面。

燦々と降り注ぐ太陽。

適度に乾燥した気候。風。etc… 

 

二日にいっぺん二日酔いになっていた私ですが、こんな光景と空気の中にいるだけで、心が大型洗濯機で洗われていくようです。心だけで、胃は全然洗われませんけど。そうして二日酔いが延長されていきます毎回。

 

 

生 産 者 紹 介

そして、出会ったワイナリーがこちら。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029190608p:plain

 

ワイナリー・Kasnyik(カスニック)

 

2006年、スロバキアのストレコフにて設立された、家族経営による、生粋の自然派ワイナリーです。

 

そして、ワイナリー・Kasnyikの核となるのがこちらのお二人。兄弟です。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029192738j:plain

 

左がお兄さんのTomás Kasnyikさん。主にマーケティングを担当します。

右が弟さんのGabriel Kasnyikさん。主に醸造を担当します。

そして、栽培に関してはお二人で行います

 

例えば、収穫時期。

毎年微妙に異なる、針の穴に通すかのようなジャストタイミングを狙います。毎日畑に出て、ブドウを口にしながら、お二人で話し合って決定するそうです。

 

ここからは、弟のGabrielさんに色々お話ししてもらいます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029200859j:plain

※弟のGabriel Kasnyikさん。徐梗機の前で。

 

畑の立地

畑は全12ヘクタール。そのうち半分が自社畑、もう半分が借地。

言わずもがな、全てバイオです。

 

※最近は「ビオロジック」と「ビオディナミ」の境界線も(いい意味で)曖昧になって、その区分(言葉)に意味を成さなくなってきましたね

 

f:id:sheldlake-wine:20181029200600j:plain

土も樹も、美しい。 

 

Kasnyikのブドウ畑は一箇所に集中している訳ではなく、五箇所に別れています。一番離れている畑間の距離は5キロほども。これってね、色々と都合が良いんですよ。

 

例えば、ある年の冬、畑Aであまりの寒さに芽が凍っちゃう、ってことがあります。

ところがそんな時、畑Cではそんなことは全くない。

 

要はリスクヘッジになる、とのことです。 

違う見方をすると、近距離でそんなにも気候に違いが出る、といえます。専門用語で恐縮ですが、ミクロクリマ(微気候)ってやつです。局所的な範囲で、多様性が生まれます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029200459j:plain

 

最適な向きに拓かれた斜面。その斜面を絶妙な微気候が流れるんだよ。これが最高のブドウが生まれる大きな要因の一つだ

 

 

土壌

Kasnyikの土壌ですが、主に粘板岩が多くを占めます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181102133201j:plain

ふっかふかのKasnyikの土。土の下もほっかほか。

 

粘板岩土壌、知っている方も多いかもしれません(ソムリエ・エキスパート試験受ける方、お勉強頑張ってますか?)

スレート」とも言います(Gabrielさんの表現はこれでした)。

 

一番有名なスレート土壌の産地っていえば、ドイツの銘醸地・モーゼルですね。

あとは、スペインのプリオラート。ここでは「リコレッリャ」と呼ばれます(視察したことありますが、これまた素晴らしい立地と畑です)。

スロバキアにだって、スレートの銘醸地 あるんですぜ、ワイン好きの紳士淑女諸君。以後お見知りおきを。

 

注目すべきは、ストレコフの土壌は、鉱物と粘土が豊富に含まれた土壌であるという点。

 

より一層ミネラリーで、糖とのバランスが抜群さ。ストレコフの力はここも大きい

 

f:id:sheldlake-wine:20181102125245j:plain

こういう会話してる時が一番楽しいですよね

 

 

伝統が引き継げた “わけ” と ワイナリーの始まり

ワイナリー・Kasnyik自体は2006年設立ですが、その歴史はもっと昔に遡ります。

そのワイン造りの伝統は、一族から代々引き継いだものです。←なぜわざわざ太字で強調したのか。普通は引き継げないものだからです、スロバキアでは

 

社会主義時代の話です(※前回の記事も参考にして下さい)。

 


 

このブログでも何度となく書いていると思いますが、スロバキア・チェコにおける、特に個人・家族経営でのワイン造りの歴史って、等しくこの時代で伝統が途絶えています(「途絶えさせられた」が正しいでしょうか)。

大規模生産者は除きますが、みな同じ、暗い歴史を辿っている。今まで出会った中小規模ワイナリー、みんなです。必ず、この話になります

 

しかし、Kasnyik一族の場合、ワイン造りに関する先祖代々の伝統製法は途絶えずに済みました。なぜでしょう。

 

f:id:sheldlake-wine:20181110191247j:plain

 

社会主義の時代。土地の個人所有が認められず、多くは国に徴収されます。一族の畑から古いブドウ樹も引き抜かれ、他の農作物のために使われたり。

 

しかし、実は250アール(ヘクタールの3分の1)は “所有は” してもよかったんです。これを、Kasnyik二人の祖父母と両親は大事に所有していました

 

もちろん、そんな広さでは商売になんかなりません。

商売にはならない。でも、残されたそんな狭い畑でも、細々と、個人的にワイン造りは続けていました。

現ワイナリーオーナーのTomás・Gabriel兄弟も、幼い頃からそれを手伝います。


だからです。Kasnyik一族のワイン造りの経験や知識、伝統を途絶えさせずに今へと引き継ぐことができたのは

 

そして、小さな頃からワイン造りを手伝っていたTomás・Gabriel兄弟。ご両親は、二人の子供の持つワイン造りの才能に気づきます。

そして民主化されてしばらく、ご両親は決心します。

 

2005年、ご両親は二人の子供にお話をします。Kasnyik一族の持つ全ての畑と醸造所を継承しないかと。

そうして二人は、一族の有形・無形の伝統を継承することを決心します。

 

これが、ワイナリー「Kasnyik」の始まりです。

 


 

 おわかりいただけただろうか。

 

f:id:sheldlake-wine:20181102135551j:plain

 

 

美しい地下セラー

さて、場所を変えて話は続きます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181106165003j:plain

 

醸造所の地下深く、Kasnyic自慢の地下セラーがあります。

この素敵な階段を下りて行くと…

 

f:id:sheldlake-wine:20181106165101j:plain

 

ビューテホー

 

なんと静謐な空間。「ほぇ〜〜」しか口にしてなかった気がします。「この日本人頭悪そうだな」って思ってたことでしょう。

 

整然と並んだ樽の中で呼吸を続けるワインの香りが、ここには満ちています。

 

f:id:sheldlake-wine:20181106165147j:plain

 

この地下セラーで、発酵〜熟成〜ボトリングまで行われます。

セラー温度は年間通して12〜13℃。発酵に最適な温度、というわけです。

 

この地下セラーの壁、すべてレンガですよね?

これね、ブラチスラヴァ市内にあった古い古い建物に使われてたレンガ。その建物が取り壊される際、お願いして全てのレンガを引き取り、それを利用してセラーを造りました。

 

新しく綺麗なセラーに見えますが、実は歴史が染み込んだ空間。無駄にさすりたくなります。

 

f:id:sheldlake-wine:20181110190800j:plain

 

 

醸造について まとめ

ここからはお兄さんのTomásさんにバトンタッチし、醸造とワインについついてあれこれとお聞きします。

f:id:sheldlake-wine:20181106173432p:plain

兄のTomásさん。この瓶内、気になるでしょ。これはまた次の機会に。

 

  • 栽培から醸造まで、一貫して亜硫酸に頼らないで済むワイン造り
  • ワイン醸造プロセス中の介入を最小限に抑える
  • 全てのワインは天然酵母による発酵
  • 全てのワインはノンフィルターで瓶詰め
  • 発酵後、8ヶ月までは二酸化硫黄は使わない。様子を見て瓶詰め前に極少量使用。特に、発酵・マセレーション時には絶対使いたくない
  • 全ての白ワインはシュール・リー法。ボトリング直前まで、澱(オリ)と接触させる。
  • 全ワインのTotal Sulphur Dioxide(総亜硫酸濃度)は30〜40mg/l まで。

 

などなど。Kasnyikの醸造哲学が詰まったお話を聞きます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181106182937j:plain

 

 

認証の有無 そして栽培/醸造哲学

前回記事のMARADAと同じく、ナチュラル認証の類は取得していません。これは完全に彼らKasnyikの意思で、あらゆる認証を取得する必要が無いと思っての判断です。

 

こんな話をしてくれました。

 

フランスの、あるビオディナミ栽培のワイナリーに視察に行った時の話だ。そのワイナリーは、ビオディナミの認証を持っている。

しかし、ワインを発酵させるそのイースト(酵母)は、実はアフリカから持って来たものだった。その土地の天然酵母じゃなかったんだ。
つまり、「その土地で産まれたワイン」なんかじゃなかった。ビオディナミってなんだって気持ちになった。

僕らは「ストレコフのワイン」を造りたいんだ。栽培から瓶詰めに至るまで、ストレコフの土地と伝統をワインにしたいんだよ

認証なんていらない。アワード(受賞)もいらない。この土地のイースト、亜硫酸に余分に頼らないこと、そしてバイオの畑。これがだけがあればいい

 

※日本でもよく「○○○アワード受賞ワイン!」とかありますよね。「ああいうコンペティションには何の興味もないし、価値もないと思っている。だからエントリーもしたことない」っておっしゃってました。

 

栽培〜醸造に至る様々な質問に真摯に答えてくれるKasnyik。

そこから明瞭に浮かび上がってくる、強靭な哲学ストレコフワインへの情熱

 

聞けば聞くほど、背筋が伸びる思いにさせられます。私すげーラフな格好で来ちゃったんだけど。

 

f:id:sheldlake-wine:20181106183742j:plain

 

 

築100年以上の「試飲ルーム」 

地上に戻ります。太陽が目に痛い。召されそう。

 

ワインの試飲は、Kasnyik一族が100年以上前に建てた当時のお家にて。

 

f:id:sheldlake-wine:20181110165523j:plain

試飲ルーム。ブドウ畑のただ中にあります。

 

f:id:sheldlake-wine:20181029200424j:plain

 

f:id:sheldlake-wine:20181110165630j:plain

 めっちゃ良い雰囲気。住みたい。住まわせて。

 

最初に出て来たのは、「グリューナー・フェルトリーナー」、そして「ヴェルシュリースリング」。

 

これが、桁はずれに美味しい

 

綺麗な酸味、ジューシーな果実味。サラリとしてるのに、果実のふくよかさを残す口中。「変わった香り」でも「流行のナチュラル風味」でもなく、まっすぐに表現された、非凡なフレーヴァーがたっぷりと香るワイン。

 

f:id:sheldlake-wine:20181110170633j:plain

こっちが心配になるくらい次々抜栓してくれます

 

この白品種、「グリューナー・フェルトリーナー」、そして「ヴェルシュリースリング」。スロバキアではメジャーな品種です。

 

しかし、Tomásさんによると

特にストレコフでは、グリューナーヴェルシュリースリングが中心。むしろ、ここでこそ、その輝きを発揮する。

とのこと。これ、ソムリエ試験に出るのでノート取るように(出ません)。

 

その流れで、以下のような懸念を話してくれました。しかしそれは同時に、信念でもありました。

 

「グリューナー」と「ヴェルシュリースリング」は、スロバキア全体でよく栽培されてる品種だ。
しかし、最近の主要な大メーカーは、この2品種を “安物” “質の低いもの” として扱っているように見て取れる。

彼ら大メーカーは、カベルネ・ソーヴィニョンとかシャルドネといった品種ばかりを次々と植えている。なぜかって、そういった国際品種でワインを造った方が “売れやすい” んだ。「土地に合っているから」ではなく、「売れるから」という理由で。
ここ10年で、この2品種の栽培面積は落ちている。これからの10年で、この傾向は激しくなっていくだろう。新しくこれら(スロバキアの)伝統品種を植える方向に進んでいないんだよ。

 

(…それわかるわ。スロバキアのカベルネはどれもあまり良くないのに、どのメーカーも造る。スロバキアに合わないだろってわかってるはずなのに。対してグリューナーとヴェルシュリースリングは、どこもめっちゃ安売りしてる)

 

f:id:sheldlake-wine:20181110185756j:plain

 

でも本来、この2つの白品種は、この土地にとって代表的で、貴重なものだ。ただ “栽培しやすいから” ではなく、「テロワールに適合しているから」「これが最高だから」、そういう気概で栽培し、ワインを造っている。
「グリューナー・フェルトリーナー」「ヴェルシュリースリング」。この貴重で素晴らしい品種を、僕らはストレコフで表現し続けて行くよ。

 

ついていきます、先生

 

これも貴重で面白いお話。

 

他にも、「周辺ワイナリーついて」「ナチュラルワインメーカーの闇」「オレンジワインの流行の裏事情」などなど、非常に興味深いお話を聞かせてくれます。

 

f:id:sheldlake-wine:20181111120443j:plain

 

本当は、早くワインについて触れたいところなんですが、ここでは割愛させていただきます。 

まじでうまいんですよ。リースリングとか、ロゼとか、ブドウ漬けワイン(←これ早く紹介したい)とか。 

 

f:id:sheldlake-wine:20181111125611j:plain

 

Tomásさん・Gabrielさんお二人とも、最初から最後まで、「ストレコフという土地」と、「自分たちのワイン」への強固な信念を端々に感じさせます。

 

その強靭な哲学。まっすぐ、一点の曇りなく。

 

 

そんなStrekovワイナリー・Kasnyik。来月、日本の皆様に初お目見えとなります。

 

刮目せよ、ストレコフの伝統と哲学。

 


 

今度輸入する新規ワイナリー紹介はここまで。

 

実は、ストレコフのワイナリーは他にも視察してましてね。

事情があって今回輸入はしませんが、来年には。そこも面白いワイナリーなので、ご紹介はまた今度。

 

 

チェコ、そしてスロバキアと、視察の旅路で出会った2ワイナリー。

ざっと紹介してきましたが、本当はまだまだ語りたいし写真も見ていただきたいものがたくさん。

 

まとめると、2ワイナリー共通するのは、どちらも最初の1杯目の香りを取った瞬間に

ふぉ……

って声が漏れたってことですね。

 

双方とも、私の思う「最高」に出会ってしまった感でいっぱい。よく出会えたなぁ。

 

 

そんな素敵な生産者の生み出すワインは、来月、日本初上陸です。

それまで、しばしお待ちを。

 

f:id:sheldlake-wine:20181111130240j:plain

=・=・=・=・=・=・=・=・=・=
株式会社シェルドレイク 代表 ムラヤマ

ワインのご購入はコチラへ⇒すべて日本初上陸のワインです

Instagram⇒超カッコいいイメージフォト群
Facebook(企業ページ)⇒商品情報などを更新
Facebook(個人)⇒私と友達になってください
=・=・=・=・=・=・=・=・=・=