体感する「伝統や文化の継承」 〜 チンクエ・テッレの家族ワイナリー 〜
〜 前回続き 〜
〜前回あらすじ〜
船で海側からのチンクエ・テッレを仰ぎ見、美しい地中海を仰ぐ断崖のブドウ畑を視察し、海風感じるワインを試飲し続けるにつれ、「仕事って何だろう」「もう全てのしがらみを捨てよう」「もう現実を忘れよう」という心に拍車が掛かっていくのであった。
さて、どんどん現実を忘れていく中で、とあるワイナリーとワインに出会います。
今回は真面目にワイナリー紹介です。
ワインの生まれる空気感が少しでも伝われば幸甚にございます。
朽ち果てた畑に、光を
●左:D.O.C. Cinque Terre Sciacchetra
一個前の記事で、こんなこと言いましたね。
時は現代に戻りますが、世界遺産とはいえ、ここチンクエ・テッレにも過疎化の波はとっくに来ているわけですよ。
ここでワインを造るって、過酷な作業の連続です。こんな急斜面で作業するわけですし、加えて石垣の補修だってあります。多くの若者は、都市部により割の良い職を求めて去っていくのも必然かもしれませんね。
視察中、放棄されたブドウ畑をいくつも見かけました。現地の方に話を聞いているのもあり、その光景はなんとも寂しいものです。
ここに、とある家族がいます。チンクエ・テッレに代々暮らす、生粋のチンクエっ子です。
その家系も、代々この地でワイン造りをしていました。しかし、上述のように過疎化の波に飲まれ、ブドウ栽培とワイン造りを継ぐものも、働き手もいなくなり、いつしかブドウ畑は放棄され荒れ果てたものとなっていました。
そんな中、「もう一度、あの頃のブドウ畑が見たい」という家族のおじいさんのために、この3兄弟が立ち上がります。
Cantine Litàn(リタン)
止まってしまった家族の伝統、忘れ去られ行く文化を現代に蘇らせるべく、2000年から畑の再開墾に着手。
土地柄もあり、畑の開墾には非常な重労働が伴いましたが、6年の歳月をかけ、畑とワイナリーの再興にこぎ着けます。
こんなにも、家族の繋がりや、伝統や文化を思い
こんなにも、情熱を向けてその再興に挑む
そんな真似、自分にはできるだろうか。ずいぶんと、そう考えさせられました。
Cantine Litànの年間の総生産量、ココではあえて明言しませんが、数千本程度という超少量しか生産しません。生産数の少ないリグーリア州の中でも、さらに少数生産ですね。
つまり、このワイナリーのワインはほぼ全て地元で消費され、外に出ることはありません。速攻でなくなります。
家族経営が基本ですし、広い畑を管理できるわけでもありません。ただでさえ、地理上限られた土地な上、大量に栽培でもしようものなら、当然ワインの味わいは落ちますから。
そんな3兄弟のうち、2人とお会いしました。
いや かっこよすぎでしょ
このご兄弟、なんと地元で消防士としても働いているんです。なんというバイタリティ。本当に、その情熱に頭が下がります。
ものすごくフランクな方達で、小さな島国でミジンコレベルの弱小ワイン会社を経営する胡散臭い日本人を、快く受け入れてくれました。
断崖での収穫
▲収穫時の風景。何個もの籠に積んで一気に、速やかに運ぶ。
前回の記事でも書きましたが、この地域のブドウ畑には平地がほぼないんです。海沿いの断崖に築かれた石垣に、ブドウが栽培されている。そんな環境で、収穫したブドウの入った重い籠を担いで、この急斜面を行き来するのは大変ですよね? だから、崖沿いの畑から↑のようなエレベータ的な運搬機に収穫したブドウ積んで、上の方に何度も運ぶわけです。
そしてコレ、人も乗って移動します。こんな風に。
▲収穫時の風景。お分かり頂けるだろうか、この急斜面。
昔はこんな機械さえなかったわけです。想像を絶する重労働だったことでしょう。この地を拓きワイン造りの礎を築いた当時の人々には、心からの尊敬が絶えません。
畑からの風景や延々と続く石垣を見ながら、名もなき偉人たちに思いを馳せると
“人間ってここまでできるんだな”って、心が揺さぶられます。
と言うわけで
私もこの運搬機に乗せてもらいました。
もう、気分は最高です。わっくわくです。「やったー」って言葉が口をついて出ましたからね。この時私から放出されたアドレナリンの多くは、眼前の地中海に溶け込んだことでしょう。
だって、この景色ですよ? 地中海が眼前一杯に広がって、それはもう美しい絶景に決まっt…
ひいいぃぃぃぃぃぃいいいいぃぃぃ
ごめんなさいごめんなさい許して降ろしてごめんなさい
め っ ち ゃ 怖 い
いや、とんでもなく良い景色なんですよ?目の前はね?
でもね、真下、怖すぎ。
写真じゃ全く伝わらないんですが、実際に乗ると、この急斜面の角度がモロに体感されるわけですよ。断崖にゆっくり落ちていく感じに、私の本能がアラームを鳴らします。「ほら、落ちるよ? ほらほら、死ぬよ?」と強迫されてるような恐怖に脳が侵されます。今度はアドレナリンじゃなくて、もっと違う、色んなもんが地中海に漏れ出そうになりました。漏れ出してたかもしれません。
土着品種を使って
D.O.C.チンクエ・テッレで規定される品種は3つ。(※D.O.C.に関して軽〜く説明した記事はコチラへGO)
●ボスコ
●アルバローラ
●ヴェルメンティーノ
この3品種を混醸し造られる、爽やかながら味わい深い白ワイン。
この中で、「ヴェルメンティーノ」はなかなか有名どこの品種ですぞ。トスカーナやフランス南部でも見られる品種で、100%単体で醸造されることも多々。
しかし、「ボスコ」と「アルバローラ」、この2つはリグーリア州以外ではまず見ません。この地に固有の、土着品種というやつです。
この3品種を用い、Cantine Litànでは昔ながらの伝統的なブレンド比率で、白ワイン・D.O.C.チンクエ・テッレを造っています。
断崖のテロワール
▲石垣の修復作業。栽培・醸造などの他にこの作業が必須。当然全て人の手によるため、かなりの重労働。
チンクエ・テッレの土壌は、水はけの非常に良い砂質。ブドウ畑としてはちょっと変わった質の土壌なのですが、この地の土壌が、単体では少しクセのあるボスコやアルバローラといった品種によく合うとのこと。他の地域でこの品種を栽培しても、あまり美味しいワインにならないそうなんです。
そして、こんな断崖に栽培されてるとはいえ、背後はずっと山なんです。この山々が、北からの冷たい風から樹を守ってくれる。地中海からの暖かい海風もブドウを寒さから守ってくれる、と同時に、潮風を浴びた独特の風味が生まれます。
こういうのを、微気候(マイクロクライメート)なんて言ったりします。
そんな、「断崖のテロワール」というものをお伝えするにはもってこいの画像を、このCantine Litànがメールで送ってくれたんですよ。
なんと、ドローンを飛ばして、ワイナリー所有の畑を撮影したようです。メール見て「ど ど どドローン!?」って口から出ました。
それがこちら。
▲上空・真上から
▲収穫時をドローンで
▲ここで育ったブドウが、そのままワインになります
イッツ ソー ビューティフォー
いかがでしょう? ワインの生まれる場所の空気が、少しでも伝われば幸いなのですが。
小さな 小さな 醸造所
▲白ワインを醸造するステンレスタンク
さて、醸造所にもお邪魔させて頂きます。収穫時期という超超超超超超多忙な時期にも関わらず、快く受け入れてくれました。なんという優しさ。普通なら、そんな時間取ってくれません。
収穫したブドウを除梗機に入れてますね。ブドウの実に付いている枝(房)の部分を、実と別にします。↓こんな風に、房だけが下からポコポコと出てきます。
通常の白ワイン(D.O.C. Cinque Terre)は、フレッシュな果実香を損なわないよう、ステンレスタンクで7ヶ月以上熟成。
崖沿いで地中海の潮風を受けながら育つブドウだからでしょうか、わずかに塩っぽさのあるミネラル感が溶けてます。
控えめに一言で表現するなら、めっちゃ美味しいわ これ です。
▲ブドウ畑のすぐ傍らで試飲させてくれました。なんという贅沢
極上の「甘」
チンクエ・テッレと言えば、このように白ワインなわけですが、もう一つ、知る人ぞ知る超希少なワインがあります。
「シャケットラ」という、スイートワイン。
▲D.O.C. Cinque Terre Sciacchetra
特にワイン愛好家の方に多いのですが、「ふ〜ん甘口ねぇ。甘口って言ったらディケムかトロッケンベーレンアウスレーゼでしょやっぱ」みたいな方、めっちゃいらっしゃるんですけどね、本当に。そういった御仁の首根っこを掴み、口を開けさせて一滴垂らしあそび申し上げたいですね。
品種は白ワインと同じ、ボスコ / アルバローラ / ヴェルメンティーノですが、これを風通しの良い場所にブドウを並べ、45〜60日程陰干しします。そうすることで果実内の水分が蒸発し、凝縮されたエキス分と高い糖分をもった干しブドウとなるってわけです。
その後ようやく搾汁し、1年以上もの間オーク樽で熟成されます。
▲シャケットラ用のブドウの選果にはおばあちゃんも加わります
▲この色合いよ。まるでブランデーですね。
味わいはここでは詳しく語りませんが、控えめに一言で表現するなら
もうすっごいわ これ です。
複雑極まる香りと味わいですよ。
ただでさえ栽培量を少なくしているに加え、干しブドウ状にしたものを搾るわけですから、それはそれはもう、ほんの少ししか生産されません。
私だったら目ん玉飛び出てるくらいなかなかに値の張るワインなのですが、その理由は、輸送ルートが限られていることに加え、限定した生産量って点もあります。ご了承頂きたい所存。
心を動かす何か
さて
これ絶対会社の代表が言っちゃいけないことだと思うんですけど
正直、これらのワイン、一会社で扱うには非常にコスパが悪いんですよ。同業者はみんなそう思うでしょうし、実際言われたこともあります。「馬鹿じゃないの」みたいなニュアンスで。これまじで。
それでも扱うことにしたのは、人間が築いた歴史とか文化、景観、そしてそれらを守ろう、継承しようという人々の姿に、少なからず心を動かされたためです。
こんな文章しか書けない自分の凡才が疎ましいですが、ほんの一端でも、そんな現地の空気や人々のことが伝われば、これ幸いというものです。
そんなわけで、旅行先の提案にかこつけて、取扱いワインの宣伝をしてしまったわけですが。
もしもご興味が湧いた方、出会い頭の事故だと思って是非お試し下さい。2つのワインとも、なかなか出会えない非凡な味わいです。
ワイナリーが居を構える一角、まるで積み木のようなチンクエ・テッレの建物風景をご覧に頂き、本日は失礼します。
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株式会社シェルドレイク 代表 ムラヤマ
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