ワイン不完全ガイド「シェルブロ」

戦わないワイン商 (株)Sheldlake代表村山による、ワインとかなんかそんな感じのブログ

『一平ちゃん夜店の焼きそば「チョコソース」』 テイスティングレヴュー

 

 

 

人間には、「出来心」というものがある。

 

その行為をすることに、何か特段の意味があるわけではない。

利益不利益とか、得手不得手とか、人間関係とか、そういった全事象から切り離された“自分”が顔を出すことがある。「つい」と口にしたことのある方は多いだろう。

 

これがまさにそうである。つい、買ってみた。 

 

先に断っておくが、この『一平ちゃん 夜店の焼きそばチョコソース』に、私は何の期待もしていなかった。むしろ、挑戦的な意思・決意・おふざけ、それのみしか感じなかった。

つい、受けて立ってしまっただけである。

 

その証拠に、買ってすぐ開封したわけではない。事務所の棚に放置し、見て見ぬ振りをして数日間を過ごした。

その間、仕事中も常に『彼』の存在を背に感じていた。それほどの圧迫感を持っていた。その圧迫感に耐えられず、数日後の開封に至ったのだ。

 

「私は食べた」と、主体的に考えていたが、今思えば、「私は食べさせられた」のだ。全ては、『チョコ焼きそば』の麺の上で、踊らされていただけだったのかもしれない。

 

 

 

 

封を開ける瞬間、おぞましいチョコの香りが立ち上ってきそうな恐怖に、私は晒されていた。開幕の一撃に備え、開封する。

しかし、『チョコ焼きそば』、ここで、スルー。

何の香りもしない。カップ焼きそば特有の、油っぽい麺の臭いがふんわりと立ち上がるのみである。

肩すかしを食った形になるが、“このスルーで油断をさせ、本命で獲りにくる”、そんな定石の兵法に、この時の私は気づかなかった。

 

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入っている袋は3つ。「特製ソース」「チョコソース」「ふりかけ」。

中でも、「チョコソース」の存在感たるや、さすがの風格と言わざるを得ない。真っ青な袋の色合いが、「冷酷な俺の血は青いんだ」と言ってるようだ。

しかし、私は見逃さなかった。「ふりかけ」の存在を。

「チョコソース」の存在に隠れてはいるが、この伏兵に注意しなければならないことを、私の本能が伝えていた。「ふりかけ」て。いや、焼きそばにはマストなのだ、ふりかけは。しかし、チョコ焼きそばに「ふりかけ」て。こんな邪悪な響きを伴う「ふりかけ」を、私は知らなかった。

 

袋を全て取り出し、熱湯を注ぐ。乾き切った素肌に、きらめきが取り戻される。魔人が今まさに封印を解かれんとしている。“私は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない”。そんなアニメよろしくなフレーズが頭をよぎる。

お湯を切る。念には念を入れて、良く切る。いつも以上に慎重に切った。お湯と油でビタビタなチョコ焼きそばなんて、想像しただけでSAN値が跳ね上がるから。

まずは「特製ソース」をかける。香りを嗅いで、私の口から出た言葉は、「うわあぁ…」。


なんなのだ、これは。「まるで~のような」と表現することが、レヴュワーとしては正しいのだろう。しかしながらの、「うわあぁ」である。

一番近い表現は「甘酸っぱい」。通常、「甘酸っぱい」とは良いベクトルの表現として使われることが多いだろう、恋のように。これは全くの逆ベクトルの恋。さしずめ、憎悪だ。

 

鼻中から全身へと広がった憎悪を押さえつけ、「チョコソース」を開ける。ソースだけの香りを嗅ぐと、チョコだ。

おや?これはチョコだ。と、意外にも普通のチョコの香りに、若干でも安心した私が、馬鹿だった。先程の「特製ソース」と「チョコソース」を麺に混ぜたとき、第二波がやってきた。
「甘酸っぱい香りにチョコが絡む」。こう書くと、まるで素敵なスイーツプレートのレヴューかのようだが、忘れないで欲しい。これは『チョコ焼きそば』である。

油の香りのする麺に、ザラメをアホみたいにまぶしたブルドックソースにチョコレートを混ぜたような、そんなカオスが顔を出した、カオスだけに、やかましいわ。一瞬の不意をついた直後の、特大の一撃。さすがは大手、明星である。たちが悪い。

 

そして、仕上げの「ふりかけ」。

繰り返すが、『焼きそばのふりかけ』ではない。『チョコ焼きそばのふりかけ』である。これを私は最も恐れていた。

「え~~ぃ!」と、ちょっとした祈祷師さながらの掛け声を心中で発し、ぱらぱらと振りかける。

なんだこれは。このシーズニングはなんだ。邪悪な色味を帯びた細かい物体群。香りを嗅ぐと、シナモンだ。よりよって、シナモンである。紛うこと無き、シナモンである。馬鹿な。とっさに、外装のフィルムを見る。そこには、控えめながらも、確かに明記されていた。『チョコっとシナモン』と。

なんてことだろう、見逃していたのだ。このトドメのシナモンへの心構えを、私はしていなかった。「チョコっとシナモン」という明星の親父ギャグ以上に、ケアレスな自身を叱った。

 

鼻の奥で、爆発が起きた。一瞬、本当にそう感じた。控えめに表現しても、鼻孔がハレーションを起こした。

何を言ってるのかわからないと思うが、私も何をされたのかわからなかった。

「特製ソース」「チョコソース」「ふりかけ」三位一体の、いや、油の香りのする「麺」を入れて四位混沌のコンビネーション。一瞬目眩がする程のインパクト。地獄の餓鬼が底から足を引っ張ってくるかのようなアフター。

ワインの世界では、料理との相性を「マリアージュ」と表現するが、この香りに関しては、意識がボンボヤージュしそうになった。

 

それら全てを満遍なく混ぜ合わせる作業の最中、私は無意識に鼻呼吸を止めていた。これではいけない、と鼻呼吸を再開する。見た目は普通の「ソース焼きそば」。香りは「チョコっとシナモン」。このアンチノミーが、脳を混乱に陥れる。“コーラと思って飲んだら麺つゆだった”、あの感覚に限りなく近い。試されている。私は今、試されている。

 

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呼吸を整え、決死の覚悟で一口すする。「清水の舞台から飛び降りる」ということわざの意味を理解したのはこの時が初めてかもしれない。

なんなのだろう、この味は。特にこれという表現が見つからない。味がない、というわけではない。思わず吐き出す程、というわけでもない。「無為自然」、その言葉が頭に浮かんだ。
しかし、次の一口で考えは変わる。麺をすする際に、鼻も一緒に呼吸したのだ。私はまたしても、無意識に鼻呼吸を止めていたのだ。
再び鼻孔がハレーションを起こした。今度は視界も一緒に、だ。完全な「シナモンチョコ」の香りならば良い。違うのだ。やはり麺。「麺由来の油」の香りに、「シナモンチョコ」。壮絶なグルーヴ。凄惨なアンサンブル。

 

味はもはやどうでも良い。この香りが、油っぽい麺と相まうことによって、本能が、飲み込むことを躊躇させる。「口当たりは普通の焼きそば、香りはシナモンチョコ」。口に運ぶ度に、毎回毎回毎回毎回このアンチノミーが襲いかかる。もう私のあらゆる知覚がゲシュタルト崩壊しそうだ。


ひたすら口に運んだ。狂ったように。 もう、この地獄を、終わらせたかった。これは、蹂躙だ。“私が”食べていたのだが、食べている間、ついぞ蹂躙されている感覚からは抜けられなかった。

 

明星の蹂躙が終わった時、放心し、全ての知覚を遮断して座り込んでいる自分に気がついた。

同時に、ひどい胃もたれにも気づいた。これはひどい。こんな胃もたれは、生まれてこのかた、記憶に無い。必死に水を飲み、ゴボウ茶を流し込んで修復を図ったが、『チョコ焼きそば』は、胃の中で這いずり回り続けた。

全て吐き出して、昼食をやり直したい。

 

……

 

断っておくが、私は『一平ちゃん夜店の焼きそば「チョコソース」』が「まずい」と言いたいのではない。

ただ、今後『チョコ焼きそば』を売っている“夜店”を見つけたら、保健所に訴えに行くとは思う。

 

 

 

我々は日々生きていく中で、狭い考えに囚われてはいないだろうか。 毎日がルーティンになり、思考が一辺倒になってはいないだろうか。

この『チョコ焼きそば』は、私にこのことを思い出させてくれた。

焼きそばにチョコとシナモンをかけて、何が悪い。人間の思考は元来自由であるべきだ。そう、訴えてるのではないだろうか。

 

この『チョコ焼きそば』を頭ごなしに否定してしまった貴方は、きっと「自分」に囚われている。

 

自分を解き放つキッカケに、是非、試してみて欲しい。

 

 

 

 私は、二度と食べない。

 

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株式会社シェルドレイク 代表 ムラヤマ

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